インタビュー・レポ

【文Ⅲ→農学部】東大卒の女性農家としてのキャリア

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今回は、川名桂さんのインタビューvol.1をお届けします。
川名さんは文科Ⅲ類から農学部国際開発農学専修に進学し、現在は東京都日野市にある街中農園Neighbor’s Farmにて野菜を栽培・販売されています。新規就農(独立して農業を始めること)された2019年当時、生産緑地を借りて農業を営まれるのはなんと全国で初めての事例でした。

── 前期課程の1年半ではどのようなキャンパスライフを送られていたのですか?

1年生の時はオーケストラサークルとテニスサークルに入っていたのですが、テニスサークルの方はイベントしか参加していない状況で、オーケストラもタイミングが合わず数ヶ月で辞めてしまうなど、課外活動はほとんどしていない状況でした。同じクラスの子と授業に出たり時には遊んだり、一方でバイトもしながら大学生活を送っていました。開発経済の授業の関係で夏休みにフィリピンへ行っていたために、大会へ参加できなかったというのが大きかったですね。2年生になってからはアイセックに入り、ここでは中国を訪問するなどの活動をしていました。

── 早い時期から海外を数多く訪問されたようですが、国際系への関心は以前からあったのですか?

そうですね。小さい時に海外に住んでいたこともあり、国際機関で働くことに興味がありました。国際協力などの授業をいくつか履修したり、フィリピンや中国に加えて、アフリカに行くゼミで10日間ほどタンザニアで過ごしたりもしました。

── とても多くの経験を積まれたのですね。コロナ禍で大学生活を送る我々にとっては相当羨ましいです。国際系の活動のほかにも何か時間を割いていたことはありますか?

大学に入学した当初は進学先が決められないからこそ、なんとなく文科Ⅲ類で入学したという経緯があったので、海外への渡航のみならず幅広い科目の授業を受けるなど様々な経験をする中で興味のある分野を探していました。具体的には地域の小学校を訪れる街歩きの授業や、建築系の図面を引く授業、さらには東大が所有する演習林を訪れる農学部系の授業も取り、幅広く勉強をしていました。

── 私も文科Ⅲ類の出身なのですが、前期課程では履修を点数に縛られ選択の幅を広げられなかったので、そうした過ごし方は非常に羨ましくもあり、憧れでもあります。こうして進学選択までに幅広く学問を修められたということですが、最終的に農学部の国際開発農学専修を選ばれた経緯と理由をお教えください。

国際機関に就職するのであれば後期教養学部の国際関係論コースに進学する、という選択肢もありましたが、フィリピンや中国、タンザニアなど数多くの場所を訪れ様々な人の話を聞く中で、私は理系的な専門分野を有する立場として接していきたいと思うようになりました。というのも社会インフラの発展していない海外の農村を訪れる中で「JICAの人は何も現場をわかっていない」とか「お金だけをもらっても意味がない」といったようなお話をたくさん聞き、調整役ではない形で働きたいと考えるようになったためです。

── 数ある理系の専門分野の中で農学部の国際開発農学専修を選択されたのは、背景にどのような考えがあったからなのでしょうか?

当初は農学にはあまり興味がなかったのですが文科Ⅲ類から理転するとなると、農学部なら国際開発農学、農業経済、工学部なら都市計画、社会基盤の4択ということに絞られました。工学部の都市計画や社会基盤も興味深く感じた一方で、海外の農村も訪れていたので食料などの農学部的なテーマに魅力を感じていました。
また工学部に進学するのは物理や化学などの理系教科を履修していない私にとって勇気がいることでした。農学部であれば社会学分野の授業も多かったので、それであれば私にも乗り越えられるだろうと考え、国際開発農学専修へ進学することにしました。

── 農学部の国際開発農学専修へ進学されたということでしたが、学科での生活はいかがでしたか?

正直なことを言うと、勉強している人がそれほどいないことに半分驚き半分ガッカリしました。(笑)研究室は国際情報農学研究室というところに入り、農業ICTに関して学びました。元々が文系出身ということで卒論も実験ベースのものではなく、農業機器を農家が導入するにあたっての障壁や世の中に普及しやすい製品に関してまとめたものにしました。

── 農学部進学以後は前期課程の時のように、何か課外活動はされていましたか?

2年の終わりから農業系のインターンをしていました。この会社では実際に農家さんのもとへ取材へ赴き、それをフリーペーパーにまとめて発行するという活動をしていました。

── 農学部の勉強にも励みながら、学外でもまた別の形で農業への知見を深めていかれたのですね。その好奇心や行動力は小さい時からのものなんでしょうか?

そういうわけではないと思いますが、大学の4年間がとても貴重な時間であることは入学時からずっと感じていました。どんな人も学生には優しく対応してくれますからね。農業系のインターンに関しても、農学部に進学して農学を学びながらも実際の農業のことは全然理解できていないなと痛感したので挑戦してみようと思いました。限られた時間の中で自分の道を見つけねばならないという思いは強く持っていた思います。

【異色のキャリア】東大卒の女性農家として~川名さんインタビューvol.3~

── 続いて就職活動のお話に移りますが、東大の理系学生の多くが大学院に進まれる中、学部卒での就職を決めた理由を教えてください。

農学栄えて農業滅ぶ」という言葉があるのですが、この言葉が示すように農業の分野では現場にこそ知識がある、という考え方が根強くあります。私もこのまま2年間農学を研究したところで何が得られるのか、疑いを感じたうえに、比較的緩い農学部の環境下で勉強のモチベーションを保ち続けられるのか不安になりました。それなら就職をして厳しい環境の下で揉まれて成長したいと考え、学部卒で就職することにしました。

── 新卒では農業法人に就職された、とのことでしたが、これはどういった経緯なのでしょうか?

先に話した農業系のインターンのお仕事の一環として、4年の春に就活イベントを主催しました。主催側とはいえ私も大学4年生だったので、参加者側に混ざって各企業を回っていたところ、「めっちゃ面白い!」と思える企業に出会いました。農家が立ち上げたその企業は当時、様々な会社とのコラボレーションを次々と成功させていおり、インターンでの活動を通して現場志向が高まっていた私を惹きつけるものがありました。こうしてこの会社の面接を受けることにし、内定をいただいたので、入社することを決意しました。

── なかなか大胆な決断ですね。実際に就職されてから、ギャップなどはありませんでしたか?

正直な話、当初聞いていたものと現実にはかなりの乖離がありました(笑)。その会社にとって新卒採用が初めてだったこともあり、さらに入社して間もなく組織再編に直面したこともあり、当初想定していた経営企画部での企画職としての仕事を担うことはできませんでした。4ヶ月ほど工場を転々として現場での勉強が続き、千葉で1年ほど働いたのちには、自社農場を立ち上げるプロジェクトの栽培担当として福井でトマトを育てることになりました。想定していた仕事と違うものにはなったものの、栽培管理を一通り学ぶことができ、それはそれで非常に楽しいものでした。

── 新卒で就かれた農業法人ではかなり大変な経験を積まれたのですね。その会社では何年ほど働かれたのですか?

3年ぐらいですね。福井で実際にトマト栽培の経験を積むなかで、都市における小規模農業への思いが強くなり、情報収集のためにも東京へ戻ることにしました。独立して農業を営むなら後々必要になるであろうマーケティングやブランディングを学べる会社へ就職し、平日はその会社に従事しながらも、週末は融資や補助金などの優遇制度を調べたり、事業計画を立てたりと農園を開く方法を模索しました。

── 学生時代からの積極的な行動力がここにも表れているのですね。本当に見習いたいです(笑)。

そうしているうちに見通しが立ったので、結局4ヶ月でその会社を辞めてしまうことになりました。独立するためには農業研修をしなければいけなかったので、退職後は東京都清瀬市にてとある農家さんにお世話になり、2年間様々な野菜を育てる中で色々なことを学びました。

── 東大生は往々にして単純作業を嫌う傾向があると思うのですが、2年間農業だけをやるというのは相当きつかったのではないですか?

新卒の会社で工場を回ったり、福井でトマト栽培をする中で、実は価値観が変わっていたんですね。そうした単純作業を作り出す立場の我々東大生がそこで働く人の気持ちを理解していないようでは、制度自体崩壊していくんだと感じましたし、そもそも自分ができないような作業を他の人にやらせてはいけない、そう痛感しました。新卒時代にそうした労働者への敬意が生まれ、単純作業への抵抗というのは無くなっていました。

── 東大生として非常に耳の痛いお言葉です。肝に銘じます(笑)。2年間の時を経て、独立するまでには相当な苦労があったと思いますが、いかがでしたか?

最初は全然農地が見つからず、挫折しかけました。このまま一生清瀬市でトマト栽培のお手伝いをして人生が終わってしまったらどうしよう、と。30歳までに独立できなければこの道は諦めようと、焦りは常にありました。ただチャンスが来るまで出会いを待つのみ、という状況でした。しかし、こうしたちっちゃい夢・希望でも周りの方々がアドバイスをして協力してくれたので、徐々に現実化していきました。自分の力というよりかは、本当に周りの人の力が大きいと感じます。そんな中2019年3月、ついに独立を果たし新規就農をする夢が叶いました。

── 真にやりたいことだからこそ、頑張れるし、人がついてきてくれるし、チャンスが到来するんでしょうね。独立後の農業経営はいかがですか?

1,2年目は自己資金で出来る範囲内で細々と農業を営みました。そのため週4回は以前のように清瀬市での農業バイトもしていました。繁忙期が重なるので大変でしたが(笑)。ただ昨年末から大規模に投資を行い栽培形態を変えたので、やっとバイトを辞め従業員を雇い、スタートラインに立った、というところです。

── これからの川名さんの農園がますます楽しみです。最後に、今の東大生に伝えたいことをお願いします。

もっと高い次元で本当に世の中のためになることは何か?と自分に問いかけてみて欲しいです。私が学生だった頃にはコンサルブームというものがありました。もちろんコンサル自体も素晴らしいお仕事ですが、本当に世の中が必要としている職業というのは流行り廃りで決まるものではありません。色々な経験を積んだり、長い歴史から考えたり、色々な文化の人をしったり、そういった体験から視座を高くして考え直し、選んでいくことが大事だと思います。
また東大生は既に恵まれている立場にいるので、リスクをとってでも社会のために行動すべきだと考えています。というか、東大生ならそもそも何をやっても、どんな挑戦的な試みをしても、致命的なリスクにはなりません。恵まれているという状況を理解したうえで、今後何事にも挑戦して欲しいと思います。

── 大変貴重なお話をありがとうございました。

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