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【裁判所に行かない弁護士】法律の専門家として国際的に働くというキャリアを歩む~羽深さんインタビューvol.4~

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2021/09/03

【裁判所に行かない弁護士】法律の専門家として国際的に働くというキャリアを歩む~羽深さんインタビューvol.4~

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今回は、文科Ⅰ類から法学部に進学し、法科大学院を卒業された後、弁護士として法律事務所だけでなく金融庁や経産省でも勤務され、国際的に活躍されている羽深さんのインタビューvol.4をお届けします。 最後となるvol.4では、インターン帰国後から現在に至るまでのお仕事や弁護士という職業の魅力をお伺いしました。弁護士に興味がある方、国際的に活躍したい方必読です。

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──インターンから帰国されて、その後はどのようなことをされたのですか?

帰国後は1年間司法修習をしました。その後法律事務所に就職し、弁護士になってからは2年半ほど主に海外の企業買収(M&A)案件を扱っていまいた。なかでも3か月間はシンガポールオフィスで勤務しました。国内案件より海外案件の方がやっていてワクワクしましたね。日本企業が海外に出ていくのをサポートするのも楽しいですし、逆に海外のビジネスが日本に入ってくるのをサポートするのも面白かったです。いずれにしても国境を超えてサービスや価値が移転する現場に立ち会うというのはとても楽しかったです。

 ──弁護士になった後に、取り扱う専門領域はどのようなタイミングで決めるのでしょうか?

事務所によるのですが、私の事務所の場合には、最初の1年は色々な分野を経験して、それ以外にも手を挙げれば案件をやらせてもらえる場所でした。私は通商法をやりたいと伝えたところ、勉強会を立ち上げさせてもらえたり論文を書かせてもらえたりしました。好きなことをやっていく中で何をやりたいのかを探っていって、国際的な案件についてM&Aを中心にやっていました。

 ──なるほど。その後金融庁に行かれたのは出向という形だったのですか?

そうですね、事務所から声がかかりました。コーポレートガバナンスを専門にやる金融庁の部署が人を募集していて、コーポレートガバナンスというものにはもともと興味があったのと、2年半やってきた弁護士の仕事とは別の角度から物事を見てみたいということで行くことにしました。

コーポレートガバナンスって法律ではなくて、上場企業に対して「この原則を達成するために自分たちで上手くやってください」と指示するものなんですね。企業側はその原則を遵守するか、しない場合はその理由を自分たちで説明するというモデルなんです。決まった法律を破ると制裁があるというハードローではなくて、原則を守っている方が株主からの評価を得られるし、企業や社会全体の利益に繋がるというソフトローなんですね。それをどうやって実務に回していくかを考えていました。

もう一つは、EUとのEPA(経済連携協定)の条約の中でコーポレートガバナンスに関する章を世界で初めて作る仕事をしました。条約に何を入れるかの交渉をするためにブリュッセルのEU本部に行き、一語一句ディスカッションしながら決めていきました。大袈裟ですけど世界に影響を与える仕事をしている実感があったし、EUの交渉官とも仲良くなれて人の輪が広がる感じがして、とても楽しかったです。これは政府の中にいないとできない仕事だったので、良い思い出です。

 ──そうだったんですね。金融庁で勤務された後はスタンフォード大学ロースクールに奨学生として行かれたんですか?

私の場合は早く外国に出たいと思っていたので、このまま留学しようと思ったんです。もともと通商法に興味があったのですが、これからの貿易はモノの貿易ではなく、国境のないサイバー空間における情報の貿易がメインになると思っていたことがあり、「デジタル×トレード」という分野に携わってみたいと思ったんです。ちょうどその時に、スタンフォード大学で「International Economic Law, Business & Policy」というコースが開講されるという話があり、シリコンバレーの中心地でトレードを勉強するというのが、これはまさに自分がやりたかったことだと思ったんです。この時期から今の私の職業に繋がる流れになっていて、デジタル政策などはこのあたりから意識するようになっていました。

 ──日本のロースクールを出ていても海外のロースクールにも行くというのはどのようなメリットがあるのですか?

実は、日本の大手の事務所の弁護士の多くは海外のロースクールに留学するんですよね。日本の司法資格を持っていると向こうのロースクールを1年で卒業でき、アメリカの司法試験も比較的受かりやすいというので行く人が多いです。私の場合スタンフォード大学で良かったなと思うのは、日本のロースクールとかなりスタンスが違ったところです。日本のロースクールは双方向的なディスカッションの中で、過去の判例と条文を見て目の前の課題を解決するんですが、根底にはこれまで積み上げてきた条文解釈や判例などとの整合性を極めて重視します。他方、スタンフォード大学の場合は、これまでなかった技術が日々作られていくシリコンバレーに立地していることもあり、先例との整合性の他に新しい物に対してどのようなルールやシステムを作るかをゼロから議論することが多かったです。そういうのはとても未来志向的、シリコンバレー的で面白かったです。



 ──ロースクールを卒業後はパリで勤務されたのですよね?

はい。外国法弁護士という形で、日本法の専門家として1年間滞在しました。留学後の1年間外国の法律事務所に勤務するというのは、日本の大手の事務所ではよくあることなんですよね。

現地企業のクライアント向けに日本法の説明をしたり、逆に日本企業のクライアント向けにEU法やフランス法の資料を翻訳したりしました。


 ──なるほど、そうなんですね。パリに勤務された後は事務所へ戻らず、経産省へ行かれたのですよね?

はい。パリに勤務していた当時は、ちょうどGDPR(一般データ保護規則)というEUの個人情報保護法のようなプライバシーの法律が施行される直前のタイミングでした。この法律はプライバシーデータの取り扱いに関する手続き上の義務が詳細に定められていて、違反した場合には多額の制裁金がかかるという法律なんです。EU域内の個人データを扱う企業であれば、EU外の企業であっても適用される場合がある法律であり、その対応で世界中の企業があたふたしていた時期でした。個人情報は保護すれば保護するほど良いものと思われがちですが、制限をかけすぎるとかえってイノベーションが進まなくなってしまうという点で負の側面があるので、バランスが必要とされているんです。EUの法律はかなり詳細にルールを決めて制裁を科すモデルでしたが、そうした環境でシリコンバレーのようなイノベーションが出てくるのか疑問がありました。このような気付きがあり、そのまま事務所に戻るのではなく、デジタル化社会における未来を見据えた根本的な制度作りの仕事をしたいと感じました。その時に経済産業省のデジタルプラットフォーム政策を扱うポストが人を募集していたので、帰国して応募しました。


 ──現在(2021年)もそこに勤務されているんですよね。具体的にはコーポレートガバナンスを推進する政策作りをなさっているのですか?

経産省では、コーポレートガバナンスにとどまらず、社会全体のガバナンスの仕組みをデザインし直すということを検討しています。これまでの制度改革は法律の中身をどう変えるかが議論されていたのですが、社会はものすごく速いスピードで変化して日々新しい技術が生まれているので、リジッドな法律体系だと新しいイノベーションを殺してしまうというデメリットもありますし、一方で新しいリスクに対してそれを規制できない、コントロールできないという課題もあるんです。達成すべきゴールを定めておいて、それをどう達成するかは企業に委ね、企業としてはリスクマネジメントのルールやモニタリング手続きを自分たちで定めてそれを社会に説明するという水平的なガバナンスモデルが重要になると思うんです。規制の在り方や企業のガバナンスの在り方を社会の変化に合わせられるように組み替えていく「アジャイルガバナンス」というモデルを提唱し、世界各国の規制当局や国際機関の方々とも連携して、グローバルに発信しています。

 ──そうなんですね。弁護士という仕事について、裁判所で既存のルールを当てはめて紛争を解決する仕事だと感じていたのですが、今日のお話を聞いて、社会の変化に合わせて制度をつくりかえていく部分にも必要な仕事だと知りました。羽深さんの考える弁護士という仕事の魅力について、お聞かせください。

職業としての弁護士と資格としての弁護士は分けて考えるのがよいと思います。職業としての弁護士というのは、例えば民事事件や刑事事件のために法廷に立ったり、企業の代理人として契約交渉したりするイメージですね。弁護士資格保有者の多くはそういうお仕事をなさっていると思います。一方で、資格を持っていればできる弁護士以外のことも色々あるんですね。例えば私は霞が関に弁護士資格保有者として入っていったし、海外に行っても資格があるから信頼してもらえるというのが少なくとも入口のところではあるんですよね。それから企業内弁護士の方も、法律の知識を活かしつつも経営や事業戦略などといった必ずしも法律に限られない分野で活躍されている方もいらっしゃいます。さらに、起業して自分がイノベーションを生み出す主体となってサービスを生み出す仕事をされている方もいます。社会の色々な場面で弁護士資格やそれを取るためにした勉強が役に立つことがあると思います。

 ──なるほど。職業としての弁護士にならずとも、司法資格を取るのは糧になるんですね。

そうですね。弁護士資格を取るための勉強とは、論理的な文章を書くことだと思うんですね。過去の判例や法律はツールとしてありますけど、本質的には社会をよりよくするための方法を論理的に組み立てて説明するというのが弁護士の能力が活かされる場面だと思うんです。そこまで抽象化すると、裁判というのは1つの場面であって、制度作りや企業経営などあらゆる場面で生きてくる仕事だと思います。弁護士資格さえあればそれを活かせる場面は社会のありとあらゆる場面にあると思います。

 ──なるほど。それでは、羽深さんの今後のビジョンについて教えていただけますか。

私の経産省の任期が来年(2022年)の1月までなのですが、その先何をするのかはまだ決めていません。ただ、日本社会がもっとオープンマインドで次々に面白いイノベーションが生まれる社会になることを制度面からサポートしたいと思っています。日本人は特に新しいものを疑いやすいと思うんですけど、それで結局現状維持の方向に力が働いてしまって新しいことが出来ないという問題があると思います。なので、過去の表面的な事象にとらわれず、現状を理屈で説明してそれが通る社会を実現したいと考えています。具体的な方法は色々あると思いますが、どうやったら社会全体のシステムをイノベーションフレンドリーかつ安心安全な社会にできるのかという仕組みの全体像のデザインを研究するというのも良いと思いますし、もう一度実務家に戻ってルールメイキングをするというのもありかなと思います。どこからアプローチするにしても、凝り固まった日本社会の制度を柔軟にして新しいものが当然のように受け入れられて、なおかつ社会全体にプラスのインパクトを与えられるような制度設計をやってみたいなと思います。

 ──ありがとうございます。最後に、この記事を読んでいる東大生に向けてメッセージをお願いします。


今の時点で自分のやりたいことが明確になっている人はそれに向かって進んで行かれるのを応援しています。一方で、自分の目標が決まっていない人も多いのではないでしょうか。私はそれは当然のことだと思うんですよね。この変化の速い社会では、今ない職業が来年には存在しているかもしれないと考えると、今のうちから人生全体のプランを確定させるというよりは、まず自分の身の回りにあるものの中で自分が一番興味があるもの、それすらも良くわからない場合には将来への選択肢が一番残りそうなものをやるのが良いのではないかと思います。今の段階では視野が狭いというのはある意味当然だと思うので、まずは自分が今見えているものの中で最善だと思うものを選び、進んでいくとまたそこに面白そうな何かはあるはずです。その場その場で選択を繰り返していくと、振り返ると1つの道になっていて、その先の道も見えやすくなっているはずだと思います。そして、それが自分だけのユニークなキャリアに繋がるんだと思います。ですので、今無理をして人生を決めなくても、立ち止まらずに進んでみるのが良いと思います。

一つだけ言えるのは、自分が本当に面白いと思えることでなければその道のプロフェッショナルにはなれないということです。自分が全然興味がないことを惰性でやり続けるのは良くないと思いますし、自分のやっていることが最善の道か自信がなければ、機会をみて大胆に環境を変えてみることも大事です。先例がなければ、自分が第一号になればよいのだと思います。若い皆さんの柔軟な発想や活発な行動力が、凝り固まった制度や価値観に阻まれることがないよう、私も引き続き革新的な制度のデザインや実装に力を入れていきます。