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東大生のためのキャリア戦略論(4) 「好き・嫌い分析」でキャリアビジョンを設定する

東大生のためのキャリア戦略論(4) 「好き・嫌い分析」でキャリアビジョンを設定する

東大生のためのキャリア戦略論(4) 「好き・嫌い分析」でキャリアビジョンを設定する

渡辺秀和(コンコードエグゼクティブグループ CEO)

一橋大学商学部卒業。株式会社三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)戦略コンサルティング部門出身。2008年、株式会社コンコードエグゼクティブグループを設立。1000人を越えるビジネスリーダーに対して、戦略系ファームをはじめとするコンサルティング業界、ファンド、事業会社幹部、起業家などへのキャリアチェンジを支援。第1回「日本ヘッドハンター大賞」のコンサルティング部門で初代MVPを受賞。著書『未来をつくるキャリアの授業』(日経新聞出版社)など。

「ブランド」や「就職偏差値」に惑わされない

キャリアのご相談に乗っていると、ブランドを過度に重視して、仕事を選ぼうとする方とお会いすることがあります。就職する際の難易度を意味する「就職偏差値」という言葉がありますが、就職偏差値が高い企業に入ることを目指す有名大学の学生もいます。人生の大半の時間をかけることになる仕事を、このような観点で選んでしまうのは、勿体ないことです。

人生を豊かに生きるためにも、私たちは、自分の「好き」を大切にしてキャリアビジョンを設定することをお勧めしています。好きなことをした方が楽しいですし、仕事に打ち込めるので得意にもなれます。その道で一流になれば、社会に与えるインパクトや収入なども大きくなります。

そもそも、就職偏差値が高いということは、人気が高い仕事だということです。当然、その中でライバルに競り勝ち、一流になるということは難易度が高い勝負となります。

そう考えると、「好き・嫌い」という観点だけでなく、「損・得」という観点からも疑問が出てきます。ブランドや就職偏差値という世間の価値観に流されず、自分の中の価値観に従って考えてみましょう。

キャリアビジョンは「好き」を大切にして決めていい

「好き」でキャリアビジョンを決めることは、決してワガママなことではありません。

大学入試では、入試科目が決められています。入試科目が、英語、数学、国語、社会であれば、それを満遍なく勉強し、総合点で合格を目指すことになります。嫌いでもやるしかありません。

一方、仕事は自分で選択してよいですし、その選択肢は膨大にあります。場合によっては、世の中にない仕事をつくってしまっても良い。大学入試とは自由度が全く異なり、主体的に選択できるのです。

それにも関わらず、世間体がいいという理由で、好きでもないことをわざわざ選ぶなんて勿体ないことです。

もちろん、その好きなキャリアを選んだ後は、全力を尽くして努力していく必要があります。その過程では、苦手なことを習得したり、あまり好きではない仕事をしたりする必要も出てくるでしょう。その努力を嫌がることは、ワガママということですね。

しかし、自分の「好き」なことを仕事に選んでよいと言われても、「そもそも、自分は何を好きなのか」がよく分からない人もいるでしょう。自分の好きが分からない、目指すべきキャリアビジョンが分からないと悩んでいるのは、学生ばかりではありません。ビジネスリーダーの皆さんでも、はっきりとしたキャリアビジョンを持っていらっしゃる方は少ないのです。自分の「好き」を知ることは、それくらい難しいことだと思います。

自己分析手法「3つの輪」は少し使いづらい

一般によく知られている自己分析手法には、「好きなこと」、「得意なこと(できること)」、「やるべきこと(収入が得られること)」の3つが重なることを仕事にするという3つの輪があります。もちろん3つの輪も有用なのですが、いくつか使いづらい面があるため注意が必要です。

まずは、体験したことがない仕事が、自分にとって好きなことなのかどうか分からないという問題があります。それに、好きな仕事でも、もの凄く嫌いな側面があった場合にはどうするのでしょう。得意なこと、できること言われても、就業経験のない日本の学生にほとんど差はありませんし、一旦就業して、好きで打ち込んでいれば、得意なことやできることもどんどん増えてきます。

収入が得られるのかという観点で言えば、検討する対象のほとんどが職業として存在しているので、この要件ははじめからほぼ満たしています。もし高収入になるかを検討したいのであれば、それはその道の一流なれるのか否かによるところも大きいわけですので、この分析からだけでは何とも言えません。例えば、整体師という職業を一つとっても、腕によって年収が何倍も何十倍も違います。

このような問題があるため、学生や若いビジネスパーソンの皆さんからは、「3つの輪の分析は実際にやってみると使いづらい。」という話をよく伺います。

「好き・嫌い分析」は「好きのエッセンス」を掴むことから始める

「好き・嫌い分析」は、自分の好き・嫌いのエッセンス(要素)を把握することで、目指すべきキャリアビジョンを知る方法です。自分でも気づいていなかったような、深い価値観を知ることになります。当初、想定していなかったような仕事が自分にフィットすることを発見するかもしれません。

それでは、いよいよ「好き・嫌い分析」の具体的な手順を見ていきましょう。まずは、「好きのエッセンス」を掴むことからはじめていきます。

例えば、自分が将棋を好きだとします。最近は将棋ブームだし、食べて行けるだけ稼げそうな仕事もある。そうだ、自分は文章力もある。では、将棋に関する記事を書くライターになろう。――と単純に考えてはいけません。

「好き・嫌い分析」では文字通り、まずは“分析”をします。将棋のどのようなエッセンス(要素)が好きなのかを分析していくのです。好きのエッセンスとは、その対象を好きな理由、好きなポイントのことです。

一口に将棋が好きと言っても、様々な要素が組み合わされています。いい作戦を用意して実戦で試すことが楽しいのか、勝負のスリルが楽しいのか、頭がちぎれるほど考えることが楽しいのか、最新の定跡を学ぶことが楽しいのか、などなど。愛棋家同士でも、どの要素が好きかは異なるでしょう。

さらに、将棋以外の好きなことからも、同様の手順で好きの要素を抽出していきます。例えば、友人たちと語り合うこと、映画鑑賞、読書、数学、一人旅など、好きなことを次々分析します。

このようにして分析していくと共通項となる要素が浮かび上がってきます。すると、自分はこういうエッセンスを含んだ仕事が好きなのだ、ということが分かるようになります。この「好きのエッセンス」を掴むことが、キャリアビジョンを考えるうえでとても大切なのです。

「好きのエッセンス」を掴むことがなぜ大切なのか?

なぜ、「好きのエッセンス」を掴むことが大切なのでしょうか。

まず1つは、「より純度の高い好き」を仕事に選べるということです。前述の例で言えば、分析した結果、将棋を指すことは2つしか好きのエッセンスが入っていなかったけど、友人の人生相談に乗ることは4つのエッセンスが入っていたとなれば、人生相談に乗ることを仕事にした方が良さそうだと分かります。

もう1つのメリットは、「可能性の幅」が広がるということです。あるご相談者の事例をあげて説明しましょう。このご相談者は、現在は40歳代で、今から20年程度前に就職活動をされた方です。就活当初は、臨床心理士になりたいと考えていたそうです。当時の学生には、まだほとんど知られていない職業によく目をつけたなと感心します。

ところが、臨床心理士になろうと思って調べ始めたら、当時は収入が低く生計を立てるのもなかなか難しいという状況だったそうです。そこで困った彼は、自分のやりたいことって何だろうと突き詰めて考えました。

そうすると、人に対して親身になって相談にのり、解決策を提案し、喜んでもらうということが、やりたいことなのだと気づいたそうです。まさに好きのエッセンスを掴んだのです。

そうなると、何も臨床心理士にこだわる必要はない。もしかしたら、学校の教師も良いか知れない、富裕層の資産運用と人生に寄り添うプライベートバンカーも良いかも知れないと、一気に視野が広くなったそうです。最終的に、彼はプライベートバンカーの仕事を選択し、今もその業界のエグゼクティブとして活躍しています。

一般的には、臨床心理士とプライベートバンカーは全く違う業界・職種です。しかし、彼の軸からすると非常に近い仕事ということになります。周辺業界だけを探る就職活動ではこのような仕事にたどり着けないでしょう。

ですが、自分の好きのエッセンスを把握すれば、各々の仕事の特性を理解でき、適切な選択をできるようになるのです。

「嫌いのエッセンス」はノックアウトファクターの把握に使う

それでは、「嫌い」の分析についても見ていきましょう。

「嫌い」についても「好き」と同様に分析を行なって、「嫌いのエッセンス」を掴みます。「どうしても嫌いなこと」が分かれば、避けるべき仕事や環境を判断できます。好きのエッセンスを満たしていても避ける“ノックアウトファクター”として活用するのです。

短期間での離職を避けるためにも、この観点は非常に大切です。もちろん、嫌いの分析については、何もかも嫌いとワガママを言っていてはダメですが。

私の場合だと、上司にへつらった者勝ちという、いわゆる社内政治が幅を利かせる環境は、かなり嫌いな要素です。就職活動時に内定をとったあるコンサルティングファームは、ベンチャー企業を対象にした経営支援をしていて、私の希望にぴったりの企業でした。

しかし、その企業の役員たちの部長や課長に対する振る舞いを見ていると、どうもおかしい。私の前でも、彼らを厳しく叱責しています。違和感を覚えた私は、ノックアウトファクターを重視して、辞退することにしました。

後に社会人になってから分かったのですが、パワハラで有名な会社でした。入社していたら、仕事内容がいくら面白くても、もたなくて短期間で辞めていたと思います。

日記は自己分析に役立つ貴重なデータ

「好き・嫌い分析」をしっかり行うためには、「日記(記録)」をつけることが役立ちます。

自分が日々どのようなことを楽しいと感じ、何を嫌いだと感じたのか、何に憤りを感じ、どんな人を助けたいと思ったのかを、記録していくことは、自分の「好き・嫌い」を知る上で大変有効です。

この作業を続けていくと自分の好き・嫌い情報が膨大に溜まります。1年ほど書き溜めた後で振り返ってみると、自分が何を好きで、何を嫌いなのかがクリアに分かるようになるでしょう。

今回ご紹介した手法は、東京大学のキャリアデザインの授業でも紹介して、就活中の学生から大変好評でした。取り組みやすい方法ですので、皆さんもぜひ試してみてください。

特に、転職活動までに時間がある1、2年生のうちから日記をつけはじめて、好き・嫌いをじっくり分析して頂くとより良いと思います。


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